イタリアの古城に三日ほど閉じ込められたことがある。
当時の秘書どうしのミスで、商談相手の休暇中に私が現地に赴いてしまった。
縦に長いイタリアの、北か南か、あるいは中央だったか、もう覚えていない。
海の匂いはしなかった。
とても小さな町だった。
商談相手の彼は、どこかのリゾートに出掛けていて戻るのは四日後だという。
それまでの間、自由に使っていいから城で待っていてくれという成り行きだ。
彼の兄弟が真っ赤なアルファロメオを操り着いた城は、見るからに古い。
石造りの小さな城は一族代々の所有ではなく、別邸として買ったらしい。
現代のキッチンやベッド、水道や電気、トイレやバスは揃っていたが、全面改装をした様子はない。一通りの説明を済ませると、アルファロメオは走り去っていった。
訓練された二匹のドーベルマンが城を守っているから安心しろと言っていた。
二匹は、見知らぬ者の侵入を見逃さず許さない、優秀なセキュリティらしい。
私が見知らぬ者ではないのだろうか。
およそ城は山の上にあるもので、見下ろす街まで歩くのは遠い。
丸三日をイタリアの古城でただ一人、過ごすことになったのだ。
面白かった。
上階からの眺めは素晴らしく、鈍色の螺旋の階段に歴史を感じ、よくわからない調度品を鑑賞し、地下の牢獄に想像を膨らませた。
忠犬とも仲良くなれた。
鎧の前で読書をして、実がなる庭で日光浴をして、チーズをたらふく食べた。古そうなワインもたくさん並んでいたが、残念ながら私は嗜まない。
あっという間の三日間が名残り惜しく終わった。
商談は大草原の中のレストランでセットされた。
そこで食べたアーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノは絶品で、今なお忘れられない。
もしもそれが発祥の味なら、中部から南部にかけての、どこかの町だった可能性が高い。