有名店『ラーメン二郎』には、客に求められる掟がいくつかあるらしい。
訪れたことがないので、真偽は分からないけれど。
例えば、食べ終える時間を周りに合わせなければならないという掟。
店員は客が箸を置く時間を見越して、次に着席する客の麵を茹で始めるため、その想定を崩すペースで食べていると『ロット乱し』と呼ばれ、礼を失すると。
面白いのは、店員に疎ましがられるのではなく『ジロリアン』と称される熱烈な支持層から、客としての振る舞いが劣ると烙印を押されるということ。『ジロリアン』達は、愛する店に配慮ができる自分に誇りを感じるらしい。
大衆文化と言えば大袈裟だけど、そんなこんなも娯楽のひとつとして捉えるのも一興というもの。思い出したのは、蕎麦にまつわる話。
蕎麦通を気取り、とやかく小煩い人は案外と多くいる。いつの時代にも。
通は蕎麦屋で決して長居をせず、品は『ざる』を選び、蕎麦の香りを鼻からも味わうために吸い込むように食べ、つゆは僅かにつけるに留めるべき、などなど。
しかし、つゆは僅かにという理由のルーツは、したたかな蕎麦屋の戦略（諸説あるけれど）。
江戸では、蕎麦そのものよりも醤油の方が値が高い時期が長く続いた。
醤油の消費を抑えたい蕎麦屋が、つゆを僅かにつけるのが通、そんな話を流布したというわけ。
通だの粋だのといった言葉にめっぽう弱い江戸っ子達が、揃い揃ってあっという間に倣ったであろうことは想像に難くない。
長居せず、経費削減にも喜んで協力してくれる。
店にとって大変に都合の良い客、それが蕎麦通。
つまり『ジロリアン』達は、江戸っ子気質を現代に受け継ぐ粋な食通と言えるのかも知れない。