人間はアルコールを分解する酵素を得て、樹上の生活に縛られなくなった。
木の実が地面に落ち発酵しても、他の猿と違って食糧にすることができる。
やがて二足歩行を確立、他の動物では類がない程の広域な行動圏を持った。
人間と酒とのかかわりは、これ程までに長く深い。
けれど私は、酒を飲まない。ここ十数年は一滴も。
強くはないけれど、飲めないというわけではない。
しかし、美味しいと思ったことが一度もないのだ。
そして酒好きな人とは逆の感覚かも知れないが、酔うことが好きになれない。
身体能力が自覚できるくらい下がるし、気分もいいようで実はそうでもない。
何より私はドライブが好きなので、思い立って出られなくなる不自由は辛い。
世界各地で無理強いされたが、断り続けて来た。
おい俺の酒が飲めないのか。飲めないのである。
ただ、美味そうに飲む人を見ると、少しうらやましい。
もしかしたら私は、人間になり損ねた猿なのだろうか。