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カニみす

韓国に活蟹レストランが軒を連ねる町がある。
もう町の名前は完全に忘れてしまったけれど。

活蟹レストランを束ねる組合の会長が相談に来た。
ロシアから生きた蟹を買いたい。手伝って欲しい。

冷凍の蟹はたくさん手に入る。しかし、いい活蟹が韓国には来ないと言う。
なぜなら、いい活蟹は日本がすべて買い占めてしまい残り物しか届かない。

ロシアの漁船は蟹を獲り、そのまま日本に向かう。オホーツク海や日本海の沿岸にある水産会社に活蟹を卸す。売れ残りが出たら、韓国にも寄る。したがって、安かろうの蟹は手に入るものの、逸品は来ない。ロシアの漁船に日本より高く買うと言っても、聞く耳を持ってくれない。

大量にはいらないけれど、富裕層を満足させる大きくて身入りのいい活蟹を安定供給して欲しい。高くても構わない。熱意を持って懇願された。

果たしてそれは事実だった。訪れた日本の水産会社の水槽には、素人の私が見ても立派で元気な蟹がたくさんいた。そしてロシアの漁船とは、長い取引で良好かつ強固な関係を築いてもいた。

ロシアの漁船が行かぬなら、日本で買えばいい。
オホーツク海に面する中堅の水産会社が快く売ってくれることになった。

ところが、輸送に課題が浮上した。活蟹の取引だから、売り渡すまで生きていてもらわないと困る。虫の息でも駄目、元気じゃないと。

今は知らないけれど、当時は蟹を死なせずに運ぶ方法が無かった。札幌からソウルのような都市間ならともかく、北海道の最果てから韓国の田舎町まで生かしたまま輸送するなんて無茶だった。しかし、無いなら作ればいい。

航空貨物では、発泡スチロールに蟹とおが屑を入れて運ぶ。
陸に上げられ泡を吹く蟹の余命は短い。

ならばトラックで水槽に入れたまま運べばいいじゃん。
韓国は日本のナンバーのまま車を走らせることができる。北海道で蟹を積み、日本列島を縦断して、福岡からフェリーで釜山に入り、さらにそのまま走ってあの町まで。
トラック野郎のロマンを掻き立てそうな唯一無二の国際輸送。

仕入れと販売の価格も合い、私は荷台に水槽を載せたトラックを 2 台、注文した。中古車が皆無だったので新車だ。愛媛県の架装メーカーが受けてくれた。
3000 万円くらいだったと思う。2 台で 6000 万円、稼ぐ車は高い。

ニュースが飛び込んで来た。ロシアの税関が、蟹の輸出を厳しく取り締まる方針に転換したと。
蟹を獲ったロシアの漁船は本来、一旦は港に戻り税関の輸出許可を得なければならない。しかし、それでは時間がかかり、獲った蟹が船上で弱ってしまう。つまり当時、ロシアから日本に輸入されていた活蟹は、すべて密輸だったらしい。漁船にはロシア税関の偽スタンプが積まれていて、日本の税関に出す書類は船上で作成されていた。

たくさんの蟹が元気に動き回っていた水産会社の水槽は、一気に淋しくなった。一時期、ロシアから活蟹の輸入が完全に止まった。いつになるかもわからない密輸の再開を待つのもいかがなものかということで、事業は始まる前に終わった。

完全オーダーメイドの水槽トラックはキャンセル不可。すぐには転売先も見つからない。
損切りするしかなく 5000 万円くらいの赤字で終えることになった。

巨大な蟹にハサミで襲われる夢を見た。
結構、痛かった。

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