ある時、私はラパスで悶えていた。
高山病による頭痛に襲われたのだ。
ボリビアのジャングルを買いに行った。
岩手県と同じくらいの面積だったはず。
安くはないけれど、破格の提示だった。
石油が出るわけでもないし、稀少鉱物が確認されている土地でもない。
ただただ延々と木々が生い茂る、想像するまんまのジャングルである。
目論見はふたつに大別できた。
ひとつ目は、当時ヨーロッパを中心に取引市場ができつつあった二酸化炭素排出権の売り手になれること。
ふたつ目は、何も把握できていない未開の土地だが、きっと何かがあるだろう、あるはずだと思ったこと。
ふたつ目に、心躍らせていた。
自分の土地に生きる動植物、鳥や昆虫、その中には間違いなく新種がいるに違いない。人類がまだ知らない菌もいるはずだ。
世界中の製薬メーカーや洗剤メーカー、大学や研究機関は、未知の菌を常に探して飛び回っている。将来、不治の病の特効薬や洗浄力が圧倒的な洗剤が私の土地から生まれるかも知れない。なんて夢がある話だろう。
もしかしたら動物どころか、見つかっていない部族が住む可能性もある。
木々に覆われて上空から見えない、古代文明の遺跡があるかも知れない。
しかし、買わなかった。
理由は、買っても自分の土地に行く手段がなかったから。
道などない。歩くには途方もないし、通るのは他人の土地だ。ヘリコプターだと航続距離が足りない。セスナなら行けるけれど、パラシュートで降下しなければならない。帰り、どうすんだ。
今では、後悔している。
毛細血管のごとく入り乱れているので当時は除外した川を辿る方法、現代なら普及した GPS ナビゲーションで難なく行き来できるのではないだろうか。
手に入れていたら今頃、ふざけた名前の新種が辞典に載っていたかも知れない。