わたしのいもうと
松谷みよ子
この子は
わたしのいもうとむこうをむいたまま
ふりむいてくれないのですいもうとのはなし
きいてくださいいまから七年まえ
わたしたちは この町に
ひっこしてきましたトラックに のせてもらって
ふざけたり はしゃいだり
アイスキャンディーを なめたりしながらいもうとは 小学校四年生でした
けれど てんこうした学校で
あの おそろしいいじめが
はじまりましたことばがおかしいと わらわれ
とびばこができないと いじめられ
クラスのはじさらしと ののしられ
くさいぶただといわれちっともきたない子じゃないのに
いもうとがきゅうしょくをくばると
うけとってくれないというのですとうとうだれひとり
口をきいてくれなくなりましたひと月たち
ふた月たちえんそくにいったときも
いもうとはひとりぼっちでしたやがていもうとは
学校へいかなくなりましたごはんもたべず
口もきかずいもうとはだまってどこかをみつめ
おいしゃさんの手もふりはらうのですでも そのとき
いもうとのからだに
つねなれた あざが たくさんあるのが
わかったのですいもうとは やせおとろえ
このままでは いのちがもたないと
いわれましたかあさんが ひっしで
かたく むすんだ くちびるに
スープを ながしこみ
だきしめて だきしめて
いっしょに ねむり
子もりうたを うたって
ようやく いもうとは
いのちを とりとめましたそして
まい日がゆっくりとながれいじめた子たちは
中学生になって
セーラーふくで かよいますふざけっこしながら
かばんをふりまわしながらでもいもうとは
ずうっと へやにとじこもって
本も よみません
おんがくも ききませんだまって どこかを見ているのです
ふりむいても くれないのですそしてまた としつきがたち
いもうとを いじめた子たちは
高校生まどのそとを とおっていきます
わらいながら
おしゃべりしながら・・・ ・・・このごろ
いもうとは おりがみを
おるようになりましたあかいつる あおいつる しろいつる
つるにうずまって・・・ ・・・でもやっぱりふりむいては
くれないのです
口を きいてくれないのですかあさんは なきながら
となりのへやで つるをおりますつるをおっていると
あの子のこころが
わかるようなきがするの・・・ ・・・ああ わたしの家は つるの家
わたしは のはらを あるきますくさはらに すわると
いつのまにか わたしも
つるを おっているのですある日 いもうとは
ひっそりと死にましたつるを てのひらに すくって
花と いっしょに いれましたいもうとのはなしは
これだけですわたしを いじめた ひとたちは
もう わたしを
わすれて しまった でしょうねあそびたかったのに
べんきょう したかったのに